2017.3.21 - 4.2
安掛正仁 Agake masahito
かごめかごめ -朝不見の里-
35mm digital
モノクロインクジェットプリント A3ノビ 18枚
あがけまさひと・略歴 >>
■かごめかごめ -朝不見の里- あさみずのさと■
壁の柱時計の針が六を指し、六つ太い鐘を鳴らしました。
正太郎君はマダ眠い目をこすりながら、今しがたまで見ていた夢のふうけいをおもっていました。
お庭は日に満ち満ちており、小鳥のさえずりや木々の葉が風に吹かれてたのしい音をさせて「これから」にあふれているようでした。
「きれいだなあ」
正太郎君はボンヤリとあたりを見まわしてみました。少し開けた窓からは、ひぐらしの鳴き声が聞こえてきます。部屋のすみずみからは夜のシンとした気配がしみ出して来るようでした。
「六時」
もう夕方でありました。
正太郎君はこれまで朝というものを話でしか聞いたことがありませんでした。正太郎君の住むおだやかな里には朝が来ないのであります。
その昔、まだ朝がやって来ていた頃に、長く続いた争いがらあり、里の人はいつまで続くのだろうと、不安な日々をすごしていました。朝は先の見えない不安の始まりであったのです。
そんな日々もいつかは終わります。でも人々は、またいつかあんな日が来るのではないだろうかと不安でした。
そんなある日、里につづく一本道の遠くからジンタの音が近づいてきました。
こんな小さな里にジンタがくることははじめてのことでありました。
にぎやかに音を鳴らしながらジンタは巡り周ります。するとその行列をするりと離れ、とんがり帽子をかぶった年寄りが里の人に声をかけました。
「朝はないかね。」
年寄りは物買いのようです。
人々は思いました。「朝がなくなれば、もうあの不安な日々はやって来ない。」そうして里の人々は朝を物買いに売ってしまったのであります。
朝の来ない里に不安はなくなり、おだやかな日々を過ごすことができるようになり、いつしか朝に思いをはせる者もいなくなりました。ジンタもそれきりやって来ることはありませんでした。
正太郎君は朝を知りません。でも小さい心は思うのです。
「朝ってどんなんだろうなあ。」
何年ぶりでしょう、この小さな里で、朝に思いをはせる心は。
夜がせまる一本道に、小さな影法師がポツネンとありました。何か遠くを見つめている様子です。
見つめる道の先からジンタの音がかすかに聞こえてくるようでした。
安掛正仁 |